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まちでであった芸術。そのしごと、しごと場。
by gei-shigoto
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安達真理 シューベルト作曲『冬の旅』

『冬の旅』(Winterreise)は、フランツ・シューベルトが1827年 に作曲した連作歌曲集である。詩の作者ミュラーは、この年の9月にわずか33歳で夭折し、シューベルトは翌年にもっと若くして世を去った。

作品の世界は、暗く重苦しい。大木正興は、「現実と幻覚との間を彷徨する寂しい男の心は、もう常人の悲哀の範囲を通りこして、狂人のそれに近い」と述べている。青年は故郷に秘かに別れを告げ、旅人として去ってゆく。明るく静かな風景と、暗くみじめな心のうちとの対比。他の旅人が歩く道を避け、悪路を選びながら歩き続けていく。

 

安達真理(ヴィオラ)と深沢亮子(ピアノ)は、24曲の中から、「おやすみ」、「風見」、「菩提樹」、「鬼火」、「春の夢」、「郵便馬車」、「道しるべ」、「宿屋」、「辻音楽師」の9曲を取り上げた。

旅人を見守る何かを感じた。旅人の移ろう、感じやすい心とともに、その背景にある山や森林の変わらぬ息吹が伝わってくる。

 

そんな自然の息吹が象徴するのが、「菩提樹」である。

第1部。ピアノの枝葉のざわめきの描写から始まる。安達のヴィオラは、声楽とは違っていた。青年自身ではないようだ。少し離れている。青年と菩提樹の立っている情景。物語の語り手である。音の立ち上がりの鮮やかさ。母音のまろやかさ、のびやかさ。緑色の薫風。

第2部(中間部)。短調に変わる。青年の歩く冬景色だ。懐かしさにひたっていてはいけない。しかし、そのとき、菩提樹が呼びかけてくる。「若者よ ここへ来てごらん ここならおまえの憩いの場が見つかるよ」。この旅の中で、このような心からの手招きは、この時だけでないか。

木立とのひそやかな交流。こんな形で救われるとは、青年も思いはしなかった。風雪の季節を耐え抜かせる、物語の確かさが描かれた。

 

最後の曲、「辻音楽師」。村はずれで、青年は、乞食楽師を見かける。

安達は、この曲集の結末を、重くしない。ディースカウのように、内なる叫びを置こうとはしない。一つの冬の情景として描く。雪景色の中に並べ置こうとする。

冬の野に立つ樹木の、雪に抗し、燃え続ける生命力。それが旅の間に、知らぬ間に、静かに青年に乗り移ったのか。次の季節の柔らかな木漏れ日が、彼には見えているようだ。

 

*安達真理・深沢亮子『Winterreise 冬の旅』(ART-3150

〔参考文献〕
音楽之友社編『最新名曲解説全集 第22巻声楽曲Ⅱ』、音楽之友社、1981年。
南弘明・南道子著『シューベルト作曲 歌曲集 冬の旅 対訳と分析』、国書刊行会、2005年。


by gei-shigoto | 2018-01-13 21:35 | 音楽
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