岡本太郎(おかもと・たろう、1911年~1996年)は、日本の芸術家である。1930年から1940年までフランスで過ごす。抽象美術運動やシュルレアリスム運動とも交流した。第二次世界大戦後、日本で積極的に絵画・立体作品を制作するかたわら、縄文土器論や沖縄文化論を発表するなど文筆活動も行った。テレビをはじめ、あらゆるメディアを通じて発言と行動を続けた。
僕がパリに行ったのは十八歳のときだったけれども、当然いろいろ悩みましたよ。僕自身は美術の道を進んで行くためにパリにいったわけで、一人で下宿屋に住んで、まずルーブル美術館に行ったんだが、有名な古典絵画をさんざん見たけれども、「あぁ、そうかそうか」と思うだけ。結構なもんだけど、心に響いてこないんだね。
それから、その翌日にまた見に行って、まだ入ったことのない19世紀の部屋に入ってみると、部屋のちょっとはずれた所に「あっ!」と思うような絵があった。それがセザンヌの絵だった。えらい衝撃を受けて、震えあがるほど感動しちゃって、涙がふき出た。はじめて近代絵画、自分と同時代の表現、それも色刷りやなんかじゃないナマにふれたんだな。
それが僕が絵に対する最初の感動、つまり、その、人の絵、美術に対する初めての感動だったわけだけれども……。
*岡本敏子・川崎市岡本太郎美術館編『対談集 岡本太郎 発言!』、二玄社、2004年。