小澤征爾(おざわ・せいじ、1935~)は、日本の指揮者である。1959年、仏・ブザンソン国際指揮者コンクールで優勝。ニューヨーク・フィル副指揮者を振り出しに、トロント響やサンフランシスコ響の音楽監督を歴任。1973年からはボストン響の音楽監督を務めながらベルリンフィルや国立パリ・オペラ座にも客演。年に一度、日本でサイトウ・キネン・オーケストラの指揮をとる。2002-2003年のシーズンから2009-2010年のシーズンまでウィーン国立歌劇場の音楽監督を務めた。
……いちばん危険なのは、スタイルとトラディションを混同することです。
齋藤先生はよく「西洋音楽にもいい伝統と悪い伝統がある。日本人には悪い伝統もないことが利点だ」とおっしゃっていた。……自分にはトラディションがない。しかしトラディションがないから、じっくり見て、聴いて、いい伝統と悪い伝統を自分で判断できるようになる。齋藤先生はそう言ってるんですね。
じゃあ、スタイルとは何か。今でこそモーツァルトとかベートーベンは、生まれたときにもうスタイルができていたといわれる。あるいはバッハは書いた瞬間にスタイルができていたと思いたいですけれども、それはやはり、演奏の積み重ねによってできてきたと言えるんじゃないか。
……われわれみたいな再現する芸術家にとって、大げさにいえば命を賭けてもいいぐらい大事なこと、それがスタイルなんです。
*遠藤浩一著『小澤征爾 日本人と西洋音楽』(PHP新書)、PHP研究所、2004年。
〔感想〕
アメリカの音楽界でもっとも権威があるとされる「グラミー賞」。小澤征爾が指揮をした作品「ラヴェル:歌劇《こどもと魔法》」が、最優秀オペラ・レコーディング賞を受賞した。
小澤は、「若い演奏家に何が必要か」という質問に対して、スタイルと答えたという。日本人は決してフルトヴェングラーにはなれない。小澤の音楽は、小澤以外には造形できない。彼は孤独である。
われわれは、人生においてスタイルを追い求めることの意味を、演奏家の生に見出そうとしているのかもしれない。