千住博(せんじゅ・ひろし、1958~)は日本画家。日本画の存在やその技法を世界に認知させ、真の国際性をもった芸術領域にすべく、講演や著述など幅広い活動を行っている。自然の側に身を置くという発想法を日本文化の根幹と捉え、自身の制作活動の指針としている。
Q.日本人の「美」に対する感覚と、西洋人のそれは違いますか?
日本人とか、アメリカ人とか、中国人とか、韓国人とか……すべての境界を越えて伝わっていくものが本当の芸術です。
そのなかには、日本人が提案し、世界の人々がそれに気づくものもあれば、西洋人が発見し、日本人がそれに感動することもあり、様々です、日本人が得意とする美に対する感覚は多くありますが、それは必ず国境も人種も超え、同じ人間として、すべての人々に伝わることができるものです。たとえば、日本料理の繊細さは全世界の人々に理解されていますし、日本建築の秀麗さも全世界の人々に好かれています。日本画も然り。
日本人の美に対する感覚は、それが良いものならば必ず西洋人に伝わります。ただし、本当に良いものだけが、この“ふるい”を通過できます。「日本人にしかわからないすばらしい日本美」などというものはありません。良いものはすべての境界を越えて伝わっていきます。逆に言えば、すべての境界を越えて伝わっていくものが本当に良いものです。
芸術は、人々が必要としていることを提案できるかにかかっています。世界が求めている“何か”は、日本のなかに数多く存在しています。東西文化の伝播の歴史を考えても、世界は日本のなかにあると言えます。それを鋭く見抜いて提案するのが、私たち芸術家の役割です。
*千住博著『芸術とは何か 千住博が答える147の質問』(祥伝社新書)、祥伝社、2014年。