岡本太郎(1911~1996)。
『今日の芸術』は、1954年に刊行された本である。1950年代の若い画家たちに、強い影響を与えたという。画家志望の若者たちに競って読まれた。芸術世界を手の届くすぐそばまで引き寄せるのに凄い力があった。
第1章 なぜ、芸術があるのか
第2章 わからないということ
第3章 新しいということは、何か
第4章 芸術の価値転換
第5章 絵はすべての人の創るもの
どうしてこんなものが世の中にあるんだろう。こんなに人をひきつけ、歓喜させ、また反発と絶望をさせる、芸術とは何なのか。
すぐれた芸術家は、はげしい意志と決意をもって、既成の常識を否定し、時代を新しく創造していく。それは、芸術家がいままでの自分自身も切りすて、のり越えて、おそろしい未知の世界に、おのれを賭けていった成果なのだ。
すぐれた芸術家の作品の中にある爆発する自由感は、芸術家が心身の全エネルギーをもって社会と対決し、戦いによって獲得する。ますます強固におしはだかり、はばんでくる障害をのりこえて、うちひらく自由感である。
人に先んじ、無理解とたたかいながら問題を出す。そして、新しい美を発見していく。猛烈なぶつかりあいが、刺激になって世の中を進めていく。
今日までヨーロッパ人たちが、いちおう優位を示したのは、彼らがすすんで異質の要素に対決し、それをのり越えることによって、新しい段階をきずきあげたからだ。
すぐれた芸術家は、たくましい精神で、つねに前進し、新しい創造をしている。当然、それは持ちあわせの常識ではただちに判断できない。自分のつねに固まってしまう見方を切りすて、めげずに、むしろ相手をのり越えていくという、積極的な心がまえで見なければ、ほんとうの鑑賞はできない。
*岡本太郎『今日の芸術 時代を創造するものは誰か』(知恵の森文庫)、光文社、1999年。