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まちでであった芸術。そのしごと、しごと場。
by gei-shigoto
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シューベルトの生きた時代

フランツ・ペーター・シューベルト(1797~1828)。音楽の都・ウィーンに生まれ、詩の世界を音楽に移し変えた作曲家。

ハイドン(1732~1809)、モーツァルト(1756~1791)、ベートーヴェン(1770~1827)に代表されるウィーン古典主義音楽の基本理念は、ソナタ形式であった。この形式は、音楽による新しい時代の革命的な思想表現で、第一主題と第二主題という対照的な2つの主題が対立し合い、もつれ合って展開してゆく。
彼らの活躍した時代は、階級的な対立を解決しようと模索した時代であり、2つの主題の葛藤は、2つの階級の対立を暗示するものなのである。

シューベルトは、ウィーン古典派から、ロマン主義への移行のただなかに位置する作曲家であった。生を享けた時代は、ウィーン古典派の時代とは微妙に異なっていた。市民が自分たちの生き方に自信を持ちはじめた時代で、自分たち中心の文化の確立を求めるようになっていた。
シューベルトも、先達にならってソナタ形式を交響曲の両端楽章で活用しているが、第一主題と第二主題の対立関係は、あまり明確ではない。

シューベルトは、無名の大衆の代弁者となった。覇気あるヒーローを登場させるより、内面のモノローグに近づいてゆく。リートは、それにふさわしい表現形式だった。

リートは、詩と音楽との融合を目指す形式で、主としてピアノ伴奏を支えとする、小さくまとまった音楽形式である。
それ以前の作曲家たちにとっては、声楽曲といえばオペラ、オラトリオ、カンタータなどをさし、リートは余技としか見なされなかった。

この時代にリートが求められた背景には、産業革命があった。地方の人々が産業の盛んな都市に集中し、農村から切り離された都市の群集が、新しい生き方や社交にふさわしい歌謡を求めはじめていたのである。
リートは、そうした当時の市民の小さなサロンでたのしむのに打ってつけの形式であった。

1814年に、17歳のシューベルトは画期的な内容を持つリートを書いた。「糸を紡ぐグレートヒェン」である。ゲーテの戯曲『ファウスト』第一部の挿入歌を原詩としていて、グレートヒェンが切ない心のうちをうたう。

このリートは、有節形式に通作形式が組み合わせた、変形有節形式という形式で書かれている。この形式は、流動化し、未来に向かって直線的に発展していく都市社会に生きる住民の心情を反映させるのに相応しかった。
そして、伴奏による二重描写が見られる。ピアノが、情景描写だけでなく心理描写の役割も担っている。伴奏は、声部を支える最小必要限度をはるかに超え出ている。

このリートは、聖書や伝説を題材にしたバラード(物語詩)からリートへの分岐点に位置する作品であった。同時代の空気を呼吸しているものの、中世の物語を題材としている。まだ内面の夢の表現であるメロディの独立した意味を持っていない。

その後、シューベルトは、メロディの開拓に向かった。
メロディは、本質的に19世紀の産物である。市民社会の形成期に現れた、社会に託す個々人の夢なのである。
シューベルトは、意識して語りだされることのない漠とした夢や願望をリートとしてうたい出した。メロディは、現世と天国、生と死、都市と自然、現実と過去、現実と未来を結び合わせる手段となった。大きな弧を描くメロディは、究極には神にまで達している。

〔参考文献〕
喜多尾道冬著『シューベルト』、朝日選書584、朝日新聞社、1997年。
by gei-shigoto | 2009-08-30 20:38 | 音楽
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